アベノミクスが上手くいかない理由
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大前 いまさらいうまでもないだろう。第一の矢である「大胆な金融政策」は、日銀のマイナス金利導入という禁じ手まで導入して、
市場のマネタリーベースをじゃぶじゃぶにしたにもかかわらず、いまだに物価上昇率2%は達成されていない
第二の矢の「機動的な財政政策」も、国債発行残高を増やして国の財政を悪化させたうえ、人手不足と資材高騰を引き起こしただけだ。
「民間投資を喚起する成長戦略」という第三の矢も、掛け声だけでまったく効果が出ていない。
地方創生や女性活用で成功した政策が一つでもあるか。
それなのに安倍首相は、先の参院選で「この道を。力強く、前へ。」と威勢のいいスローガンを掲げて大勝したものだからすっかり気をよくし、
さらに新しい三つの矢を出してきて、このままアベノミクスを推し進め、一億総活躍社会を実現すると息巻いている。
いくら前に進めたところで、政策そのものが間違っているのだから、結果など出るはずがない。
そういう指摘をきちんとしないマスコミにも責任がある。
――なぜアベノミクスではうまくいかないのでしょう。
大前 たとえば、安倍首相は円安で海外に出ていった製造業が戻ってくるというが、そのはずがない。
先進国で大学を出た人間が工場で働きたいとはまず思わないし、ましてや日本の大卒はほぼ完全雇用だ。
40年前なら中卒者を確保できたが、いまは皆高校、大学まで行くので難しい。
そうなるとあとは移民に頼るしかないが、安倍首相一派は移民反対ときている。
これでいったいどうやって数百人、数千人単位の工場労働者を集めるというのだ。
円安が輸出企業にとってメリットがあるというのも嘘。
日本はこれまでアメリカによる貿易戦争と、円高誘導で何度も苦汁を嘗めさせられてきた。
その経験を踏まえ現在では、為替がどう動いてもその影響を中和できるよう、ほとんどの輸出企業が
生産や営業の拠点を円、ドル、ASEAN(東南アジア諸国連合)などその他の通貨の国に分散して、
為替変動に対して中立な状態に維持する「カレンシー・ニュートラル」な政策を採ってきた。
だから、1ドル70円だろうが120円だろうが生き残ってきている。「円安じゃないとやっていけない」などといっている企業はとっくに潰れているのだ。
「経団連は円安を歓迎しているじゃないか」というかもしれないが、あれは円高で苦しんだ経験がメモリーに残っている老人の集合体だからだ。
安倍首相が経済対策の柱にしている国土強靱化計画、震災復興、リニア中央新幹線にしても、
工事を請け負った土木・建設業が多少潤うだけで、日本経済には何の効果もない。
リニアに関してはJR東海が自分のカネでやる、といったので国民的議論にならなかったが、
税金を出すなら区間の約90%がトンネルで、東京(品川駅)から名古屋まで約40分で行けるなら
ぜひ利用したいという人がいったいどれくらいいるのか、など基本的な評価をし直すべきだ。
国土強靭化計画も、古い高速道路を直したところで通る車の数は同じなのだから、経済対策にはならない。
震災の復興もやらねばならぬが、乗数効果のある金の使い方ではない。
このように、アベノミクスというのは、日本経済の現実を何もわかっていない人たちが
旗を振って金利を下げて、カネをじゃぶじゃぶにしている非常に浅はかな経済政策なのだ。
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